鷲の翼に乗って

久しぶりのblogで、すみません。
一昨日、佐々木譲氏の『天下城』(上・下)を読了し、充足感の余韻にひたりつつ佐々木氏のサイトにアクセスしたら、blogに次のようなことが書かれていた。
「救出費用が250万だって? いいよ、政府が出したくないってなら、おれが出すよ」
この文を読んだとき、反射的に脳裡にひらめいたのが、ロス・ペロウというアメリカ人の名前。ケン・フォレットの『鷲の翼に乗って』という作品の実質的な主人公である。佐々木氏の『天下城』は、『鷲の……』のと同じケン・フォレットの手になる『大聖堂』にインスパイアされて書かれたことが、著者インタビューで語られていた。このインタビューの記憶が『鷲の……』に登場したロス・ペロウ氏の名前を脳味噌の片隅から掘り起こしてきたのかもしれない。
ケン・フォレットといえばエスピオナージ小説――つまりスパイ小説の『針の目』で有名になった作家だが、『鷲の翼に乗って』は、1978年、イラン革命前夜の混乱の中、逮捕・投獄された米系コンピューター関連企業のイラン支社に勤務するアメリカ人幹部2名を刑務所から救出する傭兵部隊の“ノンフィクション”である。コンピューター企業の会長ロス・ペロウ氏は、政府や大使館に社員の救出を働きかけるが、いずれもうまくいかず、ついにみずからの手で救出チームを結成し、みごとに成功させるのだ。
ノンフィクションなのに、元グリーンベレーの大佐をはじめとする登場人物の面々は、そのまま冒険小説から抜け出てきたようなキャラクターで、エピローグまでもが小説的。これがノンフィクションというのだから恐れ入るが、それ以上に恐れ入るのが、自分の会社の社員を救出するために、私費を投じて傭兵を雇い、刑務所破りをさせるというペロウ氏のキャラクター。テキサス出身だというが、まさに西部劇に登場してくる典型的なテキサンだ。
『鷲の翼に乗って』が日本で刊行されたのは1984年1月のことだが、この後、ペロウ氏はGM買収に名乗りをあげたり、大統領選挙に2大政党に属さない独立候補として出馬したり。かなり個性の強く、また毀誉褒貶が激しい人物でもある。でも、こんな富豪が日本にいて、今回のイラク人質事件で人質になった人たちに請求された経費も、ポンと出してくれたりしないものか……なんてことを夢想する前に、佐々木氏のように、さっさと募金するのが現実的ではありますね。
そうそう、ネットバンキングを利用すると、思い立ったときに募金や振り込みの手続きができて便利ですよ。ネット専門銀行だけでなく、大手の銀行でも扱っています。
■写真は書棚の奥から引っ張り出したハードカバー版の『鷲の翼に乗って』(集英社)。
文庫版は集英社から上下巻で発売されています。新刊は入手難かもしれませんが。
コメント
そうそう、ケン・フォレットの公式サイトによれば、イランの刑務所から人質を救出してから今年で25年になるそうです。
投稿者: すがやみつる | 2004年05月03日 02:39
こんばんは,私は,前に「電脳文書作法」について「ホームページアンケート」に書き込みさせていただき,その後ご返事を菅谷さんからわざわざいただいた者です.ところで,「鷲の翼に乗って」は読んだことが無いのですが,この話を伺って,フレデリック・フォーサイスの「ビアフラ物語」と「戦争の犬たち」にまつわる話を思い出しました.なんでもフォーサイスは,「ジャッカルの日」で得た収入を元手に,ビアフラでクーデターを私費で起こそうと計画したとか.しかし,途中で失敗したため,それをネタに「戦争の犬たち」を書いたと,昔読んだ文庫版のあとがきか何かで見た記憶があります.
投稿者: NAG | 2004年05月05日 19:49
>NAGさん
コメント、ありがとうございました。
フォーサイスがクーデターを企んだといわれる件については、1980年頃だったか、「週刊朝日」の記事になったことがあります。スペインの港で武器を積んで出航しようとしていた船が見つかり、その船を出そうとしていた傭兵が逮捕された……というような事件だったと記憶しています。この裁判で、フォーサイスが傭兵の弁護側の証人になったというような話でした。
『戦争の犬たち』は、前2作の『ジャッカルの日』と『オデッサ・ファイル』に比べると、物語の構成として破綻していたんですよね。準備までの期間が実にリアリティがあって、しかも長く、最後のクーデターの部分がつけたしだったような構成で(オチはありましたが)、ヨーロッパでの準備の段階は、すべてノンフィクションだったのではないか……と囁かれていた作品です。
……といっても文庫版でなく、ハードカバーでしか読んでないんですが。
そういえば、『ジャッカルの日』の映画が公開になったとき、「中一時代」で、この作品をマンガ化しました。出版社に出かけたとき、編集者から「『ジャッカルの日』って映画が来るんだけど、マンガを描いてみない?」と訊かれ、「そういうのは苦手ですから……」と断って帰ってきてしまいました。この時点では『ジャッカルの日』って、動物映画だと思っていたんです。なんせ「中一時代」でしたし。
帰り道、新宿の映画館に飛び込んだら、壁に『ジャッカルの日』のポスターが貼ってあって、なんと、カッコよさそうな殺し屋の話じゃありませんか。あわてて映画館の公衆電話から編集部に電話しましたよ。「やっぱり『ジャッカルの日』、やらせてください!」って。これ、本当の話です。
もちろん映画も見て原作も読みましたが、映画、原作ともに傑作というのは珍しいですね。
その後の『オデッサ・ファイル』(ジョン・ボイト主演)は、それなりに面白かったんですが、お客がガラガラで早々に打ち切りになってしまったし、『戦争の犬』たちの映画は、原作が無視された、変な新兵器の登場するドンパチ映画になっててしまい、ちょっと情けなかったですが。
つい最近もケーブルテレビで『ジャッカルの日』は見ましたが、やはり、こちらは何度見ても傑作ですね。でも、ジャッカルがドゴール首相に向けて放った一弾が、なぜはずれたのかという理由は、映画では語られていませんでした。これについては原作を併せて読まないと、なるほど……になりませんね。
いけね。フォーサイスのことになると、つい熱くなってしまいまして(^_^;)。
投稿者: すがやみつる | 2004年05月05日 20:34
さすが菅谷さんはフォーサイスについて大変よくご存じですね.また,「中一時代」に『ジャッカルの日』の漫画を描いておられたとは知りませんでした.それから,中学一年生にドゴール暗殺未遂の話題を紹介しようとした当時の編集の方もすごいなあと思いました.
>でも、ジャッカルが
>ドゴール首相に向けて放った一弾が、なぜはずれたのかという
>理由は、映画では語られていませんでした。これについては
>原作を併せて読まないと、なるほど……になりませんね。
このオチの部分,小説のほうはよく覚えているのですが,映画ではラストの展開が早すぎて,おっしゃる通り良くわからなかった気がします.
ちなみに,私は,フォーサイスの短編集『シェパード』も好きでした.内容はあらすじ以外はほとんど覚えていませんが,こちらに収録されている作品の方が,彼の長編作品よりもオチがはっきりしていた気がします.
というわけで私も昔読んだ冒険小説やスパイ小説,ならびにSFの話を思い出すと長くなってしまうので,今日はこのあたりで終わりにします.
なお,ウエブログは掲示板やWWWとはひと味違って,おもしろい使い方ができそうですね.私も@NiftyのIDは持っているので,自分のココログがいつか出来たら,菅谷さんのweblogにもトラックバックをかけさせていただきたいと思います.それでは,おもしろい話題をまた紹介していただけることを楽しみにしています.
投稿者: NAG | 2004年05月06日 21:00
>NAGさん
「シェパード」と聞いて、つい、書棚を掘り返してしまいましたが、発見に至りませんでした。フォーサイスの長篇は、文庫でも読めるからいいやと、大半を処分してしまったんですが、「シェパード」と「ビアフラ物語」は残してあったはずなんです。
とりあえず@niftyでは「cocolog」ですが、スタートしたらリンクしてみてください。
投稿者: すがやみつる | 2004年05月06日 21:43
私は「中一時代」マンガ化された、『ジャッカルの日』をリアルタイムで読んでいます。たった数ページ(たぶん4ページくらい?)でしたが、鮮烈に覚えています。面白かったです。何度も読み返しました。
後日、映画を見たのですが、ガッカリしました。映画はマンガより面白くなかったのです。もちろん、オチを知っていたわけですが、ラストはチャールス・カロスロップの墓の前で終わってなかったですもの。(いまだに名前を覚えてる)
すがや先生の作品の方がずっとスリリングでした。切り抜いて取っていたのですが、いつの間にか母親に捨てられてました。母はコレクションの天敵ですね。
機会があれば、また読んでみたいです。
投稿者: ぽんた | 2005年11月24日 15:46
>ぽんたさん
うへっ! あの作品を、そんなにまで言っていただけるなんて!
リアルな劇画を気取って描いたのはいいのですが、あまりにも画力が不足していて、自滅してしまった……という感じではあります。
イラスト調の背景やら自動車がありましたが、自動車のイラストレーターをしていた高校のときの同級生に描いてもらいました。
投稿者: すがやみつる | 2005年11月24日 20:05